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「ガンダム MS動画図鑑」発売決定記念・スペシャル対談 〜「ガンダム」本来の魅力は動画にあり!!〜

10月27日に全7巻構成でリリースがスタートする「MS動画図鑑」。インターネットと携帯電話のコンテンツとしてロングシリーズとなっている本企画に当初から参加していたのが今西隆志氏と氷川竜介氏。今回はその成り立ちからお話を聞いた。

−−「MS動画図鑑」の企画自体は2002年の5月からということでもう7年。そして今なお継続中ですね。

今西隆志プロデューサー

今西 最初は携帯電話の配信ということでスタートしました。当時はサンライズが携帯電話でいろいろなことをやりはじめた時期だったんです。企画の候補に「ガンダム天気予報」なんていうのもあったんですが(笑)、「MS動画図鑑」のほうが映像コンテンツとしてオールマイティーだったので、こちらに決まり、DIDスタジオで制作がスタートしました。あのころは動画が1秒10〜15コマしかなかったんですよ。

氷川 当時はまだブロードバンド全盛直前の時代ですね。

今西 携帯電話のコンテンツとして始まり、それからインターネットでも配信できないかという話になって。それとファミリーレストランに映像コンテンツとして提供していたこともあります。テーブル席で動画が見られるようになっていて、その案内画面で占いや怪談がある中に「MS動画図鑑」もありました(笑)。

氷川 懐かしいですね。ソフトになるのは80秒メインですが、始めた当時は必ず80秒と30秒の2パターンをつくっていました。

今西 パケット通信料の問題で主役MS(モビルスーツ)でも2パターンあったのですが、今はもう通信速度が改善されてますからね。あっという間に進歩しました。

氷川 技術の進歩はめざましいですよね。今は携帯電話でもコマ落ちしなくなっていて感心します。

−−作品ひとつとっても、実にさまざまな機体が登場してます。その中からどうセレクトしていったのでしょうか?

氷川 扱うMSの線引きが難しいので、まずリストづくりの段階で議論を重ねています。

今西 書籍にだけ登場したり、設定でのみ存在するMSもたくさんありますが、あくまでオフィシャルとして画面に出てきたものを対象にしています。

氷川 「動画図鑑」と名前がついている以上、映像になることがすべての前提です。映像を見てお客さんがおもしろいと思ってくれるような仕立てにしているので、書籍の設定資料集やアニメムックの選定方法とは違うかも知れませんね。基本的にはMSとMA(モビルアーマー)に限定し、アッザムはMAのルーツと認められているので入れていますが、支援メカのGアーマーやコア・ブースター、その他の戦闘機や戦艦は入れていません。

今西 性能だけを書き連ねたスペック図鑑ではないんです。そのMSが開発された目的や、ドラマも織り込んだコメンタリーを、熱い“氷川節”で書き起こしていただいてます(笑)。

氷川 “氷川節”があるのかどうか、自分ではわかりませんが(笑)、悲劇の機体であってもドラマチックに、たとえ量産機でも個性が際立つように。映像コンテンツを意識して、ことば選びも、見る人の感情を盛り上げることを念頭に置いていました。MSが活躍する動画と音楽に乗せた“ことば”の相乗効果を狙ったのは確かですね。

今西 そこが大切なんだと思うんですよね。武器やスペックだけを読み上げたってつまらないですからね。

氷川 でもそうすると今度は、本編中で活躍しているMSとしてないMSとの差が激しくなるという(笑)、次の関門が待ちかまえてるんですよ。尺も決まっているので、言い足りない場合もあったり。

今西 画面で活躍してないのとか、けっこう苦しいヤツいっぱいありますね。

氷川 設定があっても、あまり画面に映ってないMSもいたりします。「機動戦士Zガンダム」第12話で、ジャブローにMSV(モビルスーツバリエーション)の機体がいっぱい登場してますよね。それらは登場カット数も少ないので、ひとつのコンテンツにまとめています。ケース・バイ・ケースでいろいろ工夫してますね。

今西 それでも画面に登場したMS・MAは基本的には網羅してますよ。

氷川竜介MSコメンタリー(解説文)

氷川 それと誰もが覚えている活躍シーンや、パイロットのことは極力織り込んで語るようにしてます。作品によってコメンタリーのニュアンスがどうしても変わることもありますね。「ファースト・ガンダム」はヒーローロボット要素があるから熱く語ってると思うんです。でも、「Z」くらいから作品のテイストが設定重視に変わったこともあって、スペックの説明が多くなりがちになった気がします。

今西 いや、やっぱりどのMSでも熱く語ってほしいですね。

氷川 作品によってキャラとMSの密着度が違うことも理由ですね。要するにMSを乗り物っぽく扱う作品とヒーローっぽく扱う作品があるので、作品のテイストに合わせてましたが、今西さんのご指摘のようになるべくドラマ寄りで熱く語れるよう、心がけています。

−−Vol.1のMS収録リストをご覧になって、難産だったと思い出されるMSはありますか?

氷川 筆頭は量産型ゲルググですね。今でこそ誰にも認められた機体ですが、実は本編映像にはほとんど映ってない幻のMSなんです(笑)。TVシリーズと劇場版を足しても3、4カットぐらい。なのに、できあがった動画はまとめ方がすごく巧みで驚きました。音も含めて、編集の妙味がありますね。DIDスタジオの皆さんのワザを楽しんでいただければと。

−−確かに量産型ゲルググは設定でカラーも覚えてますし、ガンプラやゲームで商品にはなってますが、本編での活躍ってなかなか思い出せないですよね。

氷川 劇場版「機動戦士ガンダム」の公開当時、講談社で子ども向けのポケット百科というモビスルーツ図鑑を編集したことがあって、量産型ゲルググの設定も写真がなくて苦労させられた思い出がよみがえります。当時苦労した機体って、30年経っても苦労するものなんですね(笑)。

今西 30年前はもちろん16mmや35mmのフィルムでしたからね。古い映像をデジタルデータに変換して、画質を調整していくのはけっこう大変でした。

−−細かいところで「型式番号」を檜山修之さんが「かたしきばんごう」とナレーションされていました。ずっと「けいしきばんごう」と思っていて、ちょっとした発見でした。

氷川 これも始めるとき最初に議論になりました。根拠もあって、辞書には「かたしき」と「けいしき」のどちらも書いてあります。それと専門の校閲の入ったガンダム書籍を見たら、「かたしきばんごう」とルビが振ってありました。略して「型番(かたばん)」と呼ぶこともありますし。

今西 ガンダム作品の中でも「かたしき」「けいしき」のどちらも使っていたので、みんなで話し合って「MS動画図鑑」では「かたしき」で統一することにしました。

関係者によるナレーション原稿会議の様子

氷川 しばらく作業を進めたとき、ふと気づいたことがあります。少し前のベストセラーで「声に出して読みたい日本語」というのがありましたが、「声に出して読むガンダム」って、正式にはこれが初めて? と思ったんです(笑)。名前を型式番号までフルでナレーションされているMSって実は少ないんですね。数字の読み方も「RX-78(ななじゅうはち)」だったり「MS-06(ゼロろく)」「MS-14(じゅうよん)」と、特にルールは統一されていません。過去に読みのあるものもリスペクトしつつ、世代を重ねるごとに長くなっていく番号をどう読むか。そこは苦労した点ですね。

今西 ジャパニーズ・イングリッシュなのかもしれませんが、当時からある呼び方はあえてそのままでやろうと! 現代風に読んだり、我々がかってに触ってはいけない部分だと思うんです。

氷川 本編中に出てくる型式番号の読みに関しては、オリジナル・スタッフに確認した上で基本的にそれを採用するようにしています。「MS動画図鑑」で初めてMSの正式な読みがひと通り確定することになりますね。

今西 中には前半が英語で後半が日本語の名前もあったりしますね。

氷川 録音現場では、檜山さんも苦労されてましたね。番号以外にもMSや武器の名前は、次第に読みづらいものが増えていく傾向がありました。あと個人的なことですが、自分の原稿を音読されるのは今回が初めてです。読まれることを念頭に考えることで主語述語のつながりや体現など、文章のつくり方が改めて勉強になりました。

−−こうして「MS動画図鑑」がひとつのパッケージとしてリリースされますが、振り返ってみていかがでしょう?

氷川 怪獣図鑑のように、MS単独でコンテンツが成立するのは、「ガンダム」の魅力の中心がやはりMSにあるからだと感じました。歴史に厚みも流れもあるし、機体スペックやバリエーション、武装を見ているだけでもおもしろい。この仕事ができて、ありがたく思っています。既存の情報を鵜呑みにせず、会議で話し合いながらひとつずつ検証できたのも収穫でした。とりあえずもうちょっとすれば最新作まで何とか完全制覇できそうです。すごく時間がかかりましたけど(笑)。人生最長の仕事になります。

今西 まだ続きますよ。僕は続けるつもりでいますけどね(笑)。

氷川 これからもガンダムシリーズが作り続けられる限りやると(笑)。

今西 うちのDIDスタジオは、「MSイグルー」みたいにCG制作がメインではあるんですが、実は1/3くらいは「MS動画図鑑」のようなネット関係なんです。配信コンテンツがまとまって一つの商品になることは比較的珍しくて、担当スタッフたちも喜んでますよ。過去に携帯電話で1秒10〜15コマの動画を見た方もDVD・UMDで見直してみてください。オールプレイモードで通して見ると、Vol.1は60体で74分! スゴイボリュームです。友達といっしょに見ると熱く語れますよ!」

このインタビューは角川書店「ガンダムエース10月号」のインタビュー記事を追加掲載したものです。

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